ジュリー下戸の歌舞かれて東京

歌舞伎のイヤホンガイド解説員になるのが夢のイチ歌舞伎ファンが書いているブログ

四月大歌舞伎で「役者を観る」楽しみを知った話

こんにちは、ジュリー下戸です。

先日、わたしがずっと楽しみにしていた「四月大歌舞伎」を観てきました。毎月シフトが出るたびに「さてさて次はいつ行こうかな~」なんてウキウキしているわけですが、4月は特別楽しみ。わたしの大好きな「傾城反魂香(通称:吃又)」が掛かっていたのです。

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あらすじ

主人公・又平(またへい)は、画家・土佐光信の弟子。が、腕を認められていないため「土佐」の苗字をもらえないでいる。吃音症を患いうまく話をすることができない又平を、妻・おとくが支えながらなんとか暮らしている。夫婦が師匠の家へ出向き「土佐の苗字が欲しい」と願い出るも、師匠は「絵が下手な奴にはやれない」と言う(そりゃそうだ)。そしてなんと、又平の弟弟子である修理之助(しゅりのすけ)が、又平より先に土佐の苗字をもらってしまう。この先の人生を憂いた夫婦は自害を決意。死ぬ前に作品をひとつ残そうとおとくが提案し、又平は石の手水鉢に自画像を描き始めた。すると驚いたことに、又平の絵筆で描かれた自画像は分厚い石を貫通し、描いた方と反対側に浮き出てきたではないか。その絵を観た師匠は「石貫通するとかスゴイし、何よりこの絵めちゃうまい」ということで、又平に土佐の苗字を授けることを決め、夫婦は大喜び!絵の極意を掴んだ又平は、お祝いにプレゼントされた裃を身に着け、意気揚々と弟子としての初仕事へ向かうのでしたとさ。

実はこの演目、1月にもう観ているのです。大好きな役者・坂東巳之助丈が又平を、おとくを同年代の中村壱太郎丈が演じました。1月の「新春浅草歌舞伎」はそもそも若手中心の公演で、劇場も違うので、きっと違った雰囲気の作品になるのだろうと楽しみにしていたのです。主人公又平を演じるのは、中村吉右衛門丈。

時代劇がお好きな方は、歌舞伎を観ていなくても馴染みがあるかもしれませんね。身長178cm、骨太でガッチリした立ち姿がかっこいい。武蔵坊弁慶を得意とする彼が、しゃべりの不自由なしがない絵描きをどう演じるのか、初めて吉右衛門丈の舞台を観るわたしはドキドキものでした。

わたしが吃又を観るのは、これで2回目。なので、巳之助丈と吉右衛門丈で吃又の印象がどれだけ違っていたのか、個人的な感想を書いておこうと思います(わたしはすぐ深読みして妄想を働かせる癖があるので、役者や作家の意図に反したことを書くかもしれませんが、あくまで"ジュリー下戸が感じたこと"ということでひとつ)。

又平

主人公。土佐の苗字をもらって一人前の画家になりたいけれど、なかなか主人に才能を認めてもらえない。吃音症を患っていて、しゃべりが不自由。

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巳之助丈の又平は、「悔しい!」という思いがものすごくて、喉をかきむしるところは本当に痛々しく、舌を引っ張るときは本当に抜いちゃうんじゃないかと心配になるほどでした。師匠が「絵で大成しなさい」という含みを持った言い方をしてくれても、又平は言葉の通りにとらえて「俺だってやればできるのに、吃りに生まれたばっかりに」と心の底から落ち込む。その分、苗字を許されたときの喜びようはまるで少年のようで、ほころんだ笑顔の周りに花が咲いたように、舞台がぱっと明るくなったのが印象的でした。自分の得意な踊りを踊る姿も、いきいきとして、ラストも「俺たちの冒険はまだまだこれからだ!」感がすごい。

対して吉右衛門丈の又平は、巳之助丈のものと比べると「あっさりしてるな」という印象が強かったです。これは、わたしが吉右衛門丈レベルの役者の演技を観慣れていないせいもあると思います。大きな体の肩をすぼめて、うつむきがちな又平。歌舞伎役者ではなくて、冴えない画家がうっかり花道に迷い込んでしまったような、頼りなさや心細さを感じました。そして、この人は自分の絵の才能に自信がないのでは、と思いました。師匠の言うことはよく分かる。無理を言っているのは重々承知の上。それでも、わたしは苗字が欲しいのです、どうか、どうか。又平が手水鉢に絵を描くとき、描く面を吟味する時の目、ひと筆を描き始める瞬間の目、そこには妻おとくすら映っておらず、ただ一筆に魂を乗せる芸術家のそれでした。きっとおとくにも初めて見せる顔だったのだろうなと思わせられました。言い方は悪いけど「狂気じみて」いた。そりゃ、墨抜けますわ!という気持ち。

巳之助丈の「認めてもらえない」というジレンマ、吉右衛門丈の「認めてほしい」という痛切な願い、分かる、分かるよお...!!!歌舞伎を観ていると、時代が違うせいか「その気持ち分かるー!!」となることってあんまり無いのですが、又平に関してはめちゃくちゃ分かるー!!ってなりますな。

おとく

又平の妻。しゃべりが不自由な夫をフォローする。もとからおしゃべりだった訳ではなく、夫のためにキャラを作っている。

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壱太郎丈のおとくは、お歯黒がとても印象的。後ろを向く又平を前に促したり、大きな目で心配そうに又平を見つめたり、ところどころに又平をリードするような雰囲気があって、そんな設定どこにもないのに「姉さん女房」という言葉が浮かびます。もとから極端なおしゃべりでなかったにせよ、ハキハキとしたしっかり者な性格の女性という感じがしました。又平とは、お互いを補い合うような夫婦、というイメージ。

今回、吉右衛門丈の相手役を務めるのは尾上菊之助丈。涼しげな目元、鋭く澄んだような美しい声がとっても素敵な役者さんです。菊之助丈のおとくは、知的で物静かな印象。しゃべりの場面も、内心恥ずかしいんだろうな...という健気な雰囲気。それだけ、又平の絵の才能を本人以上に信じ、心から夫を愛しているのが伝わってきて、「わたしも一緒に死にまする」という覚悟に満ちた台詞はたまらない気持ちになりました。吉右衛門丈の又平とは、きっと「似たもの夫婦」なのだろうな、という感じ。夫のために鼓を打つおとくの、幸せそうなことったら。

ちなみに菊之助丈、先日中村屋の二人桃太郎の舞台で、雉のお役を務めておいでです。とってもセクシーだしやっぱり声が本当に素敵で、腰砕けになります。

あと、これは役者ではないのですが。「吃又」は、冒頭に「絵に描かれた虎が紙から抜け出して暴れる」というファンタジック展開があり、実際に虎が出てきます。その虎が、浅草公会堂で観た子と歌舞伎座の子とで、違ったのです。
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浅草の子は、なんだかとてもかわいくて、ぬいぐるみのよう。わたしは歌舞伎に出てくる動物が大好きなので、この子も「かわいい...キーホルダーにして売ってほしい...」とずっと思っていました。が、歌舞伎座の虎はうってかわって超リアル。出てくるときも、「がおー!虎だぞー!」という感じではなく、本当に不意打ちで音もなく「ぬっ」と現れたものですから、オペラグラスで茂みを覗きながら今か今かと待っていたわたしの驚きはものすごかった...

歌舞伎の動物の着ぐるみ(正式名称不明)って、どうやって管理されているのだろう。誰か教えてほしい。

「同じ演目を観る」楽しみ

よく「歌舞伎は役者を観る演劇」といいます。新作歌舞伎も登場していますが、基本的に、ずいぶん昔から何度も何度も繰り返し演じられてきた作品が掛かっています。古典作品には「ネタバレ」という概念がなく、筋書にはオチまでしっかり書かれている。みんなが知っている物語、登場人物を、その役者がどう演じるのか?それも、歌舞伎の楽しみのひとつなのですね。

歌舞伎を観始めてまだ1年ちょっとのわたしでも、同じ演目を違う役者で観る機会が何度かありました。例えば、

去年の巡業「松竹大歌舞伎」では、昼夜同じ演目を、主役を入れ替えて演じるというWキャスト公演で、市川猿之助丈と坂東巳之助丈の2人の演じ方の違いを堪能したり。

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演目・義経千本桜の「吉野山」「四の切」は、猿之助丈と尾上松也丈の忠信を観る機会もありました。完全に狐になりきって、無邪気に蝶を追いかけながら引っ込んでいく猿之助丈の忠信に対し、何か複雑そうな表情を浮かべながら、狐のしぐさを押し隠すように慌てて引っ込んでいく松也丈の忠信。同じキャラクターでも、演じる役者(家?)の個性が出て全く違った性格に見えるのは、本当に面白いなと思います。オタクらしく言うと、「違う世界線(とか時間軸)」の話を見比べているようなものでしょうか。それに、舞台は生ものなので、初日と千穐楽でもちょっと変わってきたりもするのですから、本当にうかうかしていられませんね。

そういえば、今月の歌舞伎座の昼の部に注目です。

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吉野山」掛かる!!!!!そして忠信はというと......市川海老蔵!!!!一体どんな忠信に会えるのだろうと、今から楽しみでなりません(その次の演目では、寺島しのぶさんのご子息の眞秀君が舞台に上がって、お酒大好き少年の役(!)を務めますので要チェックです)。

演劇は芸術ですから、どっちが正しいとか、どっちが歌舞伎らしいとか、そういうのはあまり重要ではない気がします。観客が感じたことが、すべて。つまり、
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ということですね。違うか。でも、日常の一切を忘れて、電波の届かないところで、自分の感覚に身をゆだねるというのはとても気持ちの良いものです。あ~~~、早く忠信に会いたい!!!

 

ジュリー下戸でした。ありがとうございました。