ジュリー下戸の歌舞かれて東京

歌舞伎のイヤホンガイド解説員になるのが夢のイチ歌舞伎ファンが書いているブログ

十二月大歌舞伎「あらしのよるに」を観てきました

こんにちは、ジュリー下戸です。

「あらしのよるに(以下あらよる)」が歌舞伎化していたことを知ったのは、公演がとっくに終わった後でした。歌舞伎を好きになってから、「もっと早く好きになっていれば...」と悔やむことが本当に多いのだけれど、その最たるもののひとつ。あー、あらよる、観たかったなー、と、獅童丈をさまざまなところで見かけるたび思うのでした。

そうしたら、なんということ!一年の最後に、松竹がとんでもないクリスマスプレゼント。
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歌舞伎座、あの「あらよる」が掛かるというではありませんか。本当に、今年はこういうことが多かった,,,「○○観たいな~」と思うと、掛かる。どんだけ気が合うのだ、わたしと松竹(すみません)。

女暫とかさ...観たいなーと思ってたらすぐ掛かったからさ...

ここ数ヶ月はじっと幕見席に陣取っていたジュリー下戸だけれど、今回は本当に少しだけ奮発して、正面入り口から入る方の席にしました。えへへ。

あらすじ

嵐の夜。帰り道に嵐にあい、山羊のめいは雨風をしのぐために山小屋の中へ逃げ込んだ。と、そこに、同じく雨宿りをしようとした狼のがぶが入ってきた。小屋の中は真っ暗、おまけにがぶは鼻風邪を引いており、まさか相手が山羊だとは思わず、そしてめいもめいで、雷嫌いという共通点を持つ相手がまさか狼だとは思わず、「すごい嵐ですねえ」と話しかけてしまう。自然界では食べられる・食べる関係である山羊と狼だというのに、会話は大盛り上がり。もうこりゃ友達だ!と意気投合したふたりだったが、また会おうにも顔が分からない。ならばと2人は合い言葉を「あらしのよるに」と決め、翌朝小屋の前での再会を誓う。
翌朝、「「あらしのよるに~!」」と、約束した合い言葉とともにご対面。そこで初めて、お互いが山羊と狼だったと知るのだった。めいは、がぶに食われてしまうのか!?果たしてがぶは、己の食欲に勝てるのか!!??

めいの性別問題

「あらよる」は、原作の絵本もアニメ映画版も観ました。

完全版 あらしのよるに (あらしのよるにシリーズ)

完全版 あらしのよるに (あらしのよるにシリーズ)

 

原作のめいは、野生のやぎらしく痩せており、画風もあってあんまり「かわいい」感じはしませんでした。だから、丁寧な言葉を話すオスの山羊だと思っていました。

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あらしのよるに スタンダード・エディション [DVD]

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映画版のあらよるは、心優しい狼がぶを中村獅童丈、そんながぶと友情を育む山羊めいを成宮寛貴さんが、それぞれ声を当てていました。成宮さんの声はどうあがいてもオスという感じでしたが、ヴィジュアルがふかふかやわらかムチムチお肉のかわいらしい子山羊だったので、頭が混乱しました。

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テレ東で放送していたTVアニメシリーズでは、もう完全に、めいは"女の子"ということになっています。驚きです。

じゃあ歌舞伎版、尾上松也丈のめいはどうだったのかというと、映画版とTVアニメ版の中間くらい。つまり、オスともメスとも受け取れる、そんな中性的なめいだったのです。がぶは有無をいわさず男!って感じがしましたが、めいはそうではない。それがずっと不思議な魅力となってめいをキラキラさせていました。最初はどっちなんだろうと考えていたのですが、後半からどうでも良くなる。「狼」とか「山羊」とかがどうでもよくなるように、「がぶ」と「めい」であることが大事なのであって、ストーリーの進行上問題はありません。野暮ってもんです!松也丈のキュートさに、あたくしすっかり丸め込まれてしまいました...

歌舞伎オーケストラ大活躍

歌舞伎で流れる音楽は、生演奏です。効果音をはじめ、登場人物の心情やシチュエーションを歌詞にのせて歌ったり、雪が積もる音を太鼓で表現したり、あの、お化けが出てくるドロドロドロ...という音も歌舞伎由来。「あらよる」では、この歌舞伎オーケストラが大活躍します。こんな音、こんな声も出すの!?とビックリしました。
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がぶが、めいのあまりの食材としての完成度の高さに、自分の食欲と闘う場面。「ああ...ああ...ああ、食いてえなあ~」「友達...食いたい...友達...食いたい...」このがぶの心の声をだだ漏らししているのは、ほかでもない、舞台上座の二階部分で音楽を奏でている義太夫のお2人です。登場人物の心の声を観客に伝えてくれるのはいつものお仕事なんですが、がぶが突然「あんたたちうるさいんだけど!!黙っててくれないかなあ!!??」と義太夫さんたちにブチ切れ!えええ~~~、メタ~~~デッドプールが映画で「音楽スタート!」って言うみたいなやつ~~~!

f:id:jurigeko:20161220235536g:plain メタ発言する登場人物を全部デップーみたいと思うのをやめたい

義太夫さんたちは基本ポーカーフェイスで、がぶが下からワーワー言うのを聞いていたのですが、なんとがぶに向かってアッカンべー!がぶ「なんだあいつ感じわりいなあ」と義太夫dis。不意打ちすぎて肩震わせながら笑ってしまいました...そしてそんながぶに「誰と話しているんです」とめいが聞く。マンガかよ

そして、黒御簾の中にいる鳴り物隊が「メリーさんのヒツジ」をサビだけ歌う場面も。ここではくに「僕、ヒツジじゃなくてヤギなんだけどなあ...」とツッコまれていました。黒御簾からまさかの音楽がかかってきたこと、わたしは一度経験している!明治座「浮かれ心中」で、黒御簾からミッキーマウス・マーチとイッツ・ア・スモール・ワールドが流れてきたんだった。

あの時の衝撃もすごかったけど、裏方さんがこんなにグイグイくることもありませんから、いつもと違った楽しさにワクワクします。

がぶとめいの未来

めいを執拗に狙う狼・ぎろが死に(一時的に記憶喪失になっていたがぶが食べちゃった!)、追っ手がいなくなったがぶとめい。山羊の長老とみい姫が、2人の門出(って、イヤホンガイドが言ってたんだもん!結婚ぽいと思ったけど、ほんとにイヤホンガイドさんが!)を祝います。
がぶの葛藤が、端的に、でもまっすぐに獅童丈の口から語られます。狼の常識についていけず落ちこぼれていたがぶ。父はそんながぶに「狼としてのがぶではなく、がぶ自身を好きになってくれる友達がきっとできる、自分らしくいなさい」と言うのです。ああ、書いてて涙が出てきた。本当にそのとおりなんです。今いる世界で、誰にも理解してもらえず、例えいじめられていても、時間はかかるかもしれないけれど、必ず誰かがあなたを愛してくれる。そんな奇特な人がいるもんか、と思うかもしれないけれど、いる。今いる世界にいなくても、きっといる。がぶの場合、それがめいだったのです。だから食べたくなるのも我慢できる。めいを心底大切に思うがぶを演じきった獅童丈の演技には「とかいいつつ、めいを補食するタイミングを狙っているんじゃ...」と邪推する隙を与えませんでした。

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めいは、そんながぶの気持ちに応えました。「がぶは狼なのに?」いえ、きっと「狼だけど、がぶだから」。これが、めいの気持ちの根っこなのだと思います。めいなら、きっとがぶが狼でも、山羊でも、ウサギでもタヌキでも、同じように友達になっていたんだと思います。そんな純粋さが松也丈のめいにはありました。このめいなら、と思わせるパワーがありました。なよなよっとして、かわいくて、男の子か女の子かも分からないふわふわした存在だけれど、物語の中で誰よりも、信じる力の強い子でした。


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嵐の夜に、山小屋で出会わなかったら。もしがぶの鼻がきいて、めいを山羊だと認識していたら。めいががぶの顔を見たとき、逃げ出していたら。ふたりが同じ幸福草を、プレゼントとして持ってきていなかったら。もし、めいも狼だったら、がぶも山羊だったら、絶対にこの結末にはたどり着かなかったのです。これは、ファンタジーじゃなきゃ成り立たないというお話ではありません。わたしたちの周りにも(もしかして自分自身が)がぶのような人はいて、めいに会う日を夢見ているのかもしれません。そしてその日は、何気ないひとつひとつの偶然が重なって突然やってくるのでしょう。


ああ、希望だ、光だ、あらしのよるに。観られて良かったです。この作品のことは、きっとずっとわたしの心の奥に暖かく残ります。

ジュリー下戸でした。ありがとうございました。

 

追伸

いつも翌月になってから観賞した記事を書いているわたしですが、今回に限ってはひとりでも多くの人に観てもらいたすぎて、まだ公演中ですが大急ぎで書きました。千秋楽は12月26日です。チケットまだあります。ネットで買えます。当日券もあります。あらよる通しで3000円。是非!!!!!