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ジュリー下戸の歌舞かれて東京

歌舞伎のイヤホンガイド解説員になるのが夢のイチ歌舞伎ファンが書いているブログ

芸術祭十月大歌舞伎を観てきました

歌舞伎大好き!

こんにちは、ジュリー下戸です。

「歌舞伎」モチーフのアイテムは世の中に数あれど、歌舞伎にある程度親しみ始めると「あ!これは連獅子だ(と思う)!」とか「勧進帳(な気がする)!」とか気づきがあって大変たのしいです。そして、歌舞伎モチーフによく用いられる演目というのはごく限られているのだなあとも思います。例えばわたしの中で「義経千本桜」はかなりメジャーな演目なのですが、狐忠信のグッズってあまり見たことがない。やっぱり、隈取りがドーン!派手な衣装がバーン!イヨォ~~~ッ!!バーッタリ!!な感じが扱いやすいのでしょう。分かりやすいしね。

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歌舞伎フェイスパック」とか、まさに。

で、その分かりやすいザ・歌舞伎!な演目のひとつに「」があります。隈取りというか、その衣装は一体...?と絶句せざるを得ないそのインパクト、それは髪なの...?と目を疑う奇抜なヘアスタイルがポイントの有名演目。

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いらすとや で「歌舞伎」と検索すると出てくるこのイラストも「暫」。さっきのパックの隈取りも「暫」。

何か知らないけどめちゃくちゃ強い男の人が悪を一網打尽にする「暫」。その女の人バージョンである、その名も「女暫(おんなしばらく)」が歌舞伎座で掛かるらしい。しかも、わたしも何度か拝見している中村七之助丈がやるらしい。た、大変だー!!もう大慌てで、財布とオペラグラスを引っつかんで東銀座へ駆けつけたのでした。

ザ・歌舞伎

街で話題の悪い野郎・清原武衡は、楯突いてきた善良なる加茂次郎義綱一行をいびりにいびりまくっていた。「家来にならないなら死刑」の一言であわや処刑か、というところに参上したのが、「女暫」こと巴御前(ともえごぜん)。とにかくめちゃくちゃ強い巴御前は、処刑寸前だった義綱一行のために悪をやっつけ(1人で!)てあげたんだとさ。めでたしめでたし。

物語はこれだけ。巴さんが悪い人たちをやっつけ弱き人たちを助ける。単純明快、愉快痛快。このシンプルなお話の中に、いわゆる歌舞伎の様式美、約束事といったエッセンスがギュッと詰まっています。
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巴御前のヴィジュアルだけでも、色々ありますよ。髪型はご本家に負けず劣らず奇抜。主人公感あります。頭の後ろから生えている白いものは、うさ耳ではなく「力紙」と呼ばれる、まあ、紙です。これがあることで「ハイこの人強いで~す」と観客が分かるようになっています。異様につり上がった眉毛はその通り、人が怒る時に眉毛が釣り上がるのを誇張しているので、悪者にたいしてプリプリしているのを示しています。

着物についている、□を3つ集めたようなロゴは「三升(みます)」と言って、市川家の家紋です。「暫」は市川家(海老蔵さんち)が作ったシリーズ「歌舞伎十八番」のひとつなので、七之助丈は中村屋だけど、市川家マジリスペクトということでつけているんですね。胸が熱くなるぜ。

他にも、悪の親玉は顔に真っ青な隈取りをしており、見るからにおどろおどろしく、「わたし悪い人です」って、顔にかいてある。赤いぽっぽのお兄さんがたは、血の気が多い悪党の印です。足に不思議な赤い線が入っていますが、筋肉の線を強調することで肉付きの良さを示しているのです。

ワンピース歌舞伎では、フランキーがこの「暫」で用いられていたルールにのっとったヴィジュアルをしていました。力紙をつけ、足にはしっかり赤いペイント。サイボーグである彼はほかのキャラクターと比較して、腕力はかなり上です。ワンピースを知らなくても、歌舞伎のルールを知っていれば「この人はどうやらパワーがあるようだ」となんとなく分かるようになっている。面白いなー。(以下の記事でフランキーの写真が見られます。演じている市川猿若さんはべらぼうにイケメンなので是非チェックしてください)

俺たちの巴

巴御前が登場する前「暫、暫(しばらく、しばらく/ちょっと待った~!)」と声がかかるのですが、その声を聞いて悪の一行は恐れおののき、「なんだか知らないけど、動悸がしてきた...」「よく分からないけど、胃がキリキリしてきた...」と露骨にソワソワしだす。本家の暫のパロディであるので、この主人公到着の合図である「しばらく」の声はもうお馴染み。悪者たちに、フラグが立った。観客はくるぞくるぞー!俺たちの巴御前が!!と大興奮します(また引っ張るのだなこれが...)。
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焦らして焦らして、万を辞して登場した巴御前のキュートさは、もはや時代を超越していました。まず登場するやいなや、どっかと花道に腰掛けてお茶を飲み、どけと言われても絶対にどきません。ツーンとそっぽを向き、威勢のいい言葉を相手に吐きかけたかと思えば、はたと我に帰って「いやだわあ、恥ずかしい」と急にしおらしくなったり、揺さぶりをかけてきます。まさにギャップ萌え。悪者チームが1組ずつ「よし、俺が行く。やい女、どきやがれ」と巴御前のところへ進み出て行くのですが、ことごとくやられて引っ込んでいきます。さながらポケモンバトル。チートポケモンしか使わないバトルガール・トモエがしょうぶをしかけてきた!

ギャグマンガ ぶっとび!ともえ御前

マイペースで、つっかかってくる悪者たちをケチョンケチョンにしていく巴御前。中盤で巴御前が「お手を拝借♡」と言って、なぜか敵味方一斉に三本締めをする、という場面があるのですが、そこで今までコメディリリーフ的立ち位置だった鯰坊主(なまずぼうず、演じるのは尾上松也丈!)が突然ツッコミ役になって「...って、おかしい!!」ってもっともなツッコミを入れるところがあって、鯰坊主の外見も相まって「コロコロコミックかよ」と思いました。
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イメージ画。

巴御前が出てきてから、急に物語はテンポアップ。笑いどころが続き、気づいたら悪者も退治されて幕引き。でも、巴御前は花道に残っています。何をするのかと思えば「ハアー、終わった終わった。これ(お衣装)マジ重いもう無理、さっさと楽屋戻って脱ぎたい、あ、どうも中村七之助です、今回は中村芝翫とその息子たちの襲名公演ということで、本当にめでたいことでございます、ではわたくしは女暫が終わったので楽屋に帰ります、帰ってこれ脱ぎます、さようなら」という趣旨のことを(観客の笑いも誘いつつ)さらっと述べて、本当にさっさと帰ろうとするのです

でも、巴御前(七之助丈)にはもうひとつ見せ場があるのです。本家の暫は、花道でリズミカルに踏みながら退場する六方(ろっぽう)という退場パフォーマンスがあるのです(ワンピース歌舞伎でボン・クレーがやったやつ)が、それは本来女形がやるものではありません。でも巴御前は、パロディとはいえ「暫」なのだから、六方はやっとけと言われる。そこで、裏方さん的な人からやり方を教わって実践するのですが...花道の途中まできたところで、ピタッと動きを止めて「..........恥ずかしい♡」。ここで落ちる。みんな落ちる。絶対に落ちる。いくらなんでもかわいすぎる、ぶっとびガール・ともえちゃん。将来自分の子どもができて、もし女の子だったら「ともえ」って付けたい。それくらい巴御前は、強く気高く美しく、そしてたまらなくチャーミングな女性なのでした。

三兄弟同時襲名

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襲名公演って、実は初めて拝見しました。出世魚みたいに、役者の名前が変わっていくことはなんとなく知っていたのですが、実際に知っている役者が襲名するまさにそのタイミングというのは初めて。

今回、中村橋之助の名を襲名することになった中村国生丈を初めて拝見したのは、今年のお正月の「新春浅草歌舞伎」でした。舞踊「土佐絵」で、白塗りをし、パステルカラー(燕の柄)の着物を着ている。ひとりの女性をふたりの男が取り合うというストーリーで、恋のライバルである不破(演じたのは坂東巳之助丈)の男臭く力強い振る舞いに対し、くにおくん演じる名古屋は繊細で知的で、少し困ったような表情が素敵でした。

そして、コクーン歌舞伎くにおくんは、主への忠義を頑な(すぎるほど)に守り通す小平役。手の指をぐっちゃぐちゃに砕かれても、主の病を治すために薬を求め、かなわなかったために化けて出るなど、諸々狂気じみていて、お岩さんよりよっぽど怖かった。心の底にひたひたと溜まっていた闇が、どろんと溢れてくるような、でもそこに悪気は一切ないような。小平とは、仮に一瞬だろうとも、オペラグラス越しにだって、絶対に目を合わせたくないと思いました。

そんなくにおくんが、国生から橋之助になる。弟たちと一緒に。この祝福すべき三兄弟のために作られた舞踊「初帆上成駒宝船(ほあげていおうたからぶね)」を観ました。歌詞は「三兄弟、力を合わせてがんばります」というもの。オペラグラスを覗いて見つめたくにおくんは、浅草の時の丸みのあるお顔から、いくぶんシュッとしたように見えました。伏し目がちにした時のお顔は、お父様の面影を強く感じ、血を想いました。決意に満ちたお顔が物語ります。歌舞伎の家に生まれたから歌舞伎役者にならなきゃいけなかったのではなく、自分で歌舞伎役者の道を選びとったのだと。かっこよかった。くにおくん、いいえ、中村橋之助丈。さらなるご活躍をお祈りしております、ほんとに、ほんとに、心から!

ジュリー下戸でした。ありがとうございました。