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ジュリー下戸の歌舞かれて東京

歌舞伎のイヤホンガイド解説員になるのが夢のイチ歌舞伎ファンが書いているブログ

七月大歌舞伎を観てきました

こんにちは、ジュリー下戸です。

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六月大歌舞伎「義経千本桜」で、すっかり一幕見席の味をしめたわたし。夏休みに海外旅行を計画しているので、お金を抑えたくって、七月大歌舞伎は幕見でいこう!と決めました。幕見席は、何と言ってもお手軽さが魅力。東京観光ついでに観に来る外国人の方も多く、多いときは半数くらい外国人の時も...

記念すべき歌舞伎座デビューの感想記事はこちら

どれくらい気軽に行けるのかというと、

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銀座での用事が早めに済んだ後「あ!まだ席あるかな!?行ってみようかな」と思い立って、歌舞伎座にてくてく歩いてって、まだチケットが販売していたら颯爽と劇場に入って...ということができるくらい!お値段も1000~2000円とお手軽だし!

(もしこうなったときのために、銀座に行くときは双眼鏡を持って行っている)

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たった一幕のために700円もイヤホンガイドに払うの?とお思いの方、イヤホンガイド大好き野郎ジュリー下戸は迷わず借りますよ。そして、そんな方のために、イヤホンガイドって幕見の方にはちょっと安く貸してくれるのです。

イヤホンガイドは、観ている場面のこと以外にも、時代背景や豆知識なんかも耳打ちしてくれる、「ガイド」というより「歌舞伎めっちゃ詳しい先輩」という感じ。500円で先輩をお招きしてると思って借りています。

わたしがイヤホンガイドの回し者と化している記事はこちら

流星

あらすじ

一年に一度、七夕の日に巡り合える織姫と彦星。去年は雨天中止だったので、実質会うのは二年ぶり。雲のあいまを縫ってようやく、巡り合えた二人のところへ「ハイ注目~~~!!」とKY流れ星が飛んできます(どれくらいKYかというと、このロマンチックな逢瀬のところにウキウキ踊りながらやってきて、花道でクシャミして鼻水すするくらい)。控えめに言ってもブチギレて良いレベルですが、律儀で優しい織姫と彦星は流星の言うことに耳を傾けてくれます。この雰囲気ぶち壊してまで言いたいことなんだから、さぞ重要なことだろうと思うじゃないですか。流星、何を言い出すのかと思ったら「こないだ雷(鬼)の夫婦がめちゃくちゃ喧嘩して、ご近所さんまで巻き込むレベルで散々やっててヤバかったんだけど、近所のばばあが入れ歯を喉に詰まらせてみんな爆笑ってオチだった」。この一連の流れを全身全霊で語りつくして満足した流星は、汗をふき終わると「じゃ!」と飛んで行くのでした。何してくれとんねん。

衣装がかわいいカップル

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期待の若手2人が務めたカップルが、衣装もかわいいし優しいしで最高でした。織姫は尾上右近丈、彦星は坂東巳之助丈。前回の六月大歌舞伎でわたしが観た彼は、真っ赤なお顔の亀井六郎だったので、今回の白塗りでシュッとした美青年ぷりに度肝抜かれました。

本当、歌舞伎役者がすごいなーと思うのは、毎回毎回全く別人のような感じがするというところ。巳之助丈、太く大きな声が特徴的な役者さんなんですが、正直今回の彦星、しゃべりを聞いても「え、ほんとにみっくん...?」って疑っちゃうレベルでした。涼しい目元、かっこよすぎる。わたしも彦星とおそろのレインボーの棒持ちたい。

めまぐるしい面づかい

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流星役を演じるのは、市川猿之助丈。素人目に見ても、美しい振りと全くブレない体幹、しなやかな筋肉の動きはうっとりしてしまいます。何より圧巻だったのは、雷夫婦の喧嘩の場面。夫、嫁、子供、ばばあ(ほんとに「ばばあ」って言うの!!キョーレツ)のお面を次々に付け替えて、踊りの仕方で登場人物を演じ分けるところ。後ろでお面の付け替えをするお手伝いさん(後見さんという)がいて、その人と息がピッタリ合っているのも分かるし、だからこそのスリリングな感じもたまらなかった!まるで張り付いているかのようだった、あれどうなっているんだろう?口にくわえているのか?早変わりには、思わず拍手!!見応えありました。汗も拭きたくなるわよね。でも、懐からタオル出して汗をぬぐって、そのタオルをぐるぐる回して乾かしていたのには笑いを堪えきれなかった

憎みきれないろくでなし

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ろくでなしという言い方もどうかと思うけど、本当「なぜ今それを報告?」とあきれ返ってしまう、この流星。面白すぎる。ところどころの決めポーズも、適度にウザくてクセになる。ラストは「西に行こうか、東に行こうか~」なんて暢気に飛び立って、流星を見送る織姫と彦星を指差してプークスする始末。もーーーかわいいやらウザいやら、本当に憎みきれない、愛すべきKYなのでした。このラスト大好き!と思っていたら、舞台写真にこの場面がしっかり収められていました。買いました。

流星はトータルで1時間もない演目なので、舞踊ですが退屈する暇もなく、鮮やかな面の変わり方や手さばき足さばきに釘づけになりますし、織姫と彦星は中盤から微動だにしないのでかわいい衣装を舐めるように観察できるし、ラストは笑えてほっこり。素敵な舞踊でした!

荒川の佐吉

あらすじ

元大工の佐吉は、今はやくざの下っ端で雑用ばかり。大工時代の弟分・辰五郎は、そんな佐吉を兄貴と慕っています。そんなある日、成川という浪人が、佐吉の親分を斬りつけて、縄張りを奪ってしまう事件が起きます。一家は解散。それでも佐吉が親分に仕え続けていたところ、親分が盲目の赤ん坊を連れてきました。親分の長女が、日本橋のいいとこのお嫁に行って産んだ子だったのですが、障害を持った赤ん坊に対する世間体を考えた向こうの家から母子ともども離縁を迫られていたのです。それで、親分は養育費をもらって、赤ん坊だけ引き取ってきたというわけ。親分は、まだ親分のもとにいる次女と佐吉の2人でこの赤ん坊を育ててくれと頼むのですが、次女は「下っ端の嫁になんかなってたまるか、養育費に目が眩みやがったなクソ親父!」と吐き捨てて家を出て行ってしまいます(そりゃそうだ)。ムシャクシャした親分は、憂さ晴らしにイカサマ賭博に手を染めて、そのまま殺されてしまいました。佐吉は、盲目の卯之吉と2人きりです。

その後、佐吉は辰五郎の家に居候という形で、卯之吉を育てていました。卯之吉はとてもお利口。辰五郎もいいヤツで、一緒になって卯之吉をかわいがってくれています。さてこれから卯之吉をどうしようと考えていた矢先、卯之吉の本当の親が今更「子供を返してほしい」と言ってきたのです。盲目だからって子供を捨てようとした家に返すわけねーだろ!とキレた佐吉、無理やり卯之吉を奪いに来た野郎どもに向かっていくうち、戦いに目覚めます。その勢いのまま、親分の仇・成川を殺します。

無事に成川から縄張りを奪い返し、広いお屋敷に住むようになった佐吉。そこに、恩のあるお偉いさんと、卯之吉の本当の母親が会いにきて、やはり卯之吉を返してほしいと頼んできます。嫌だと言う佐吉。けれど、本当に子供のためを思ったら、金があり、母親がいる本当の家に帰るのが良い。佐吉は、涙ながらに卯之吉を返すことに決めます。佐吉は親分の立場を捨て、旅人になるのだと言って、桜散る中去って行くのでした。

海老蔵

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何度か歌舞伎を観ていたけれど「あの海老蔵」を観る機会がなかったので、今回は初海老蔵市川海老蔵丈は、佐吉の親分の仇で何考えてんだかよく分からない浪人・成川役。背中を向けている状態で舞台に現れ、クルリと振り向いた瞬間に「海老蔵だ!!」と感動しました。白塗りの似合う大きなお顔、大きいけれど涼しげな目元、セクシーな口元、歌舞伎を知る前からとっくに知っていたあの顔!思わず拍手。成川はムカつくけど、海老蔵丈はめちゃくちゃかっこよかった。

嫁もらえ!辰五郎

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大好きな坂東巳之助丈演じる辰五郎は、主人公佐吉を兄貴と慕う準主役!!台詞いっぱい!嬉しい!!木の影に隠れて様子をうかがったり、団子を食べかけてやめたり、ぷりぷり怒ったり笑ったり歌ったり、

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生着替えがあったり!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!(動転)

歌舞伎はふんどしを履いたり上裸になったりちょいちょい露出があるのですが、いざ自分が好きな役者の肌を目の当たりにすると...あの...照れますな...。

佐吉が盲目の赤ちゃんを抱えて家にやってきたとき、辰五郎はどう思ったのだろう。自分だって、金持ちじゃありません。一生懸命大工として働いているけど、人を養うほどではありません。それで、佐吉と卯之吉には言わず、夜なべしたりするんです。部屋着に着替えて、また仕事をするんです。どこまでいい奴なんだお前は。嫁もらえ。家には、辰五郎と佐吉と卯之吉という、血のつながらない男だらけ。辰五郎は佐吉を慕ってはいるけど、見た感じ情愛というわけではないので、「父親2人で子供を育てて行こう♡」というわけでもないのだ。あくまで家主と居候、弟と兄貴の関係なのだ。辰五郎。嫁もらえ。

でも、この男3人暮らしが、そう悪いものでもなかったことは、利発でお利口に育った卯之吉を見ればわかります。佐吉も辰五郎も、保護者として素晴らしいよ...

イクメン佐吉

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イクメンって、今となっては死語みたいなものですが、「歌舞伎のイクメン」という語感が面白いのであえて使います。首のすわっていない赤ん坊を抱きあげるときの、あぶなっかしい感じがとてもリアルな猿之助丈の佐吉!赤ん坊に頬を寄せる佐吉の優しいしぐさが好きだな~と見ていたら、ラスト、卯之吉との別れのシーンでもやるんですよね。目の見えない佐吉の頭に手をやって、そっと頬を寄せる。そこで、今まで気丈にいた卯之吉の顔が悲しく歪む(猿くん最高)。

佐吉は、本当に優しい人です。みんなから見捨てられた親分のことを、ひとり信じてついていきました。家族から見捨てられた卯之助を、大事に大事に育ててきました。そんな人柄を、辰五郎もよく知っていたのだと思います。だから、佐吉が成川を討つと決めたとき。卯之吉が自分の手から奪われそうになったとき、佐吉は斧で人を殺します。絶句する辰五郎に、佐吉が「俺はやれる」と震える手で言う場面の猿之助丈の演技がすさまじかった。個人的には、「俺はいやだ」と言い張るシーンより鳥肌が立ちました。卯之助という存在を守るために、自分の「人を殺すことができる」面を見つけた佐吉。優しい優しい佐吉から、父性も、奥底の闇を引っ張り出したのも、また卯之吉だったのですね。

本当の親と育ての親

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佐吉は、卯之吉の母親が土下座して頼み込んでも、卯之吉を返すのを拒みます。そりゃそうです。盲目の子を抱えて生きることがいかに大変なことか。母親もいないやくざ者の自分が苦労して育てた、自分を父と慕ってくれるかわいい子を、誰が返すものか。「盲目だからと捨てて、寂しいから返せとは、虫が良すぎるんじゃありませんか」泣きながら頼み込む実の母親に対し冷たく吐き捨てる佐吉。あの、人を殺せる佐吉の目でした。「犬猫じゃあるまいし」。その通りだよ!!絶対返すなよ佐吉!!

が、そこに説得に入る、佐吉が仇を討つとき助けてくれた政五郎が言った言葉に、わたしも佐吉もハッとさせられるのです。

「自分が育てたから、自分の子供だというのか?」

「そんな理屈は、それこそ犬猫と一緒じゃないか」

「卯之吉はお前の子じゃない」

政五郎の言葉は、もっともでした。佐吉もその言葉に、目を閉じて黙り込みます。もうここで、わたしはうんと我慢しないと嗚咽が漏れそうなほど泣いてます。卯之吉は、家族のもとで幸せになれる。お金がある、恵まれた環境で勉強ができる。佐吉と辰五郎のもとでは、卯之吉は「木琴を練習して、見世物小屋に出る」という言葉を漏らしてしまうけれど、本当の家でなら、もしかしたら。

佐吉が卯之吉と別れることを決めた翌日、別れの朝。佐吉は、もうすべて捨てて、旅人として生きるのだと言います。辰五郎は、卯之吉をおぶって見送りに来ました。

「子供は泣かねえ。お前も泣くな」と言う辰五郎、まっさきに顔を伏せて涙を隠すそぶり。卯之吉と別れる佐吉の気持ちを想っているのはもちろん、辰五郎だって、悲しいに決まってる。ただ、佐吉は辰五郎に対して、長々と別れの辞を垂れたりしません。あまりにもあっさり、背中を向けて去って行きます。

「おとうちゃーーーーーーーーーーーーーーーーーん!!!!!!!!」

よく通る、猿くんの声。ずっと唇を結んでいた卯之吉が、目の見えない卯之吉が、父の背中に向かって投げかける最後の声。そんな卯之吉を背負う辰五郎のなんとも言えない、切ない表情。嗚呼...(もうハンカチで鼻と口を覆っているので酸欠)

辰五郎はこのあと、卯之吉を家族へ渡す役を務めるのでしょう。辰五郎はひとりになります。そのあと、辰五郎は、卯之吉は、そして佐吉はちゃんと幸せになったのかしら。どうか幸せになってください。余韻がすごすぎて、泣きはらした顔で電車に乗って帰るはめになったわたしに免じて(?)。「荒川の佐吉」は、大人の男たちの、家族と義理人情の物語でした。本当に生で観られて良かった。観て良かったです。

 

ジュリー下戸でした。ありがとうございました。