ジュリー下戸の歌舞かれて東京

歌舞伎のイヤホンガイド解説員になるのが夢のイチ歌舞伎ファンが書いているブログ

コクーン歌舞伎を観納めてきました

こんにちは、ジュリー下戸です。

先日コクーン歌舞伎の千秋楽鑑賞してきました。先日歌舞伎座デビューをしたばかり(追って書きますね)のわたし、もちのロンでシアター・コクーンも、「四谷怪談」も初めてです。

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発売日にゲットしていたチケットを握りしめ、わたしはいつものくせでイヤホンガイドを探していました。が、コクーン歌舞伎にはイヤホンガイドがない!!!おいおい、四谷怪談って古典歌舞伎でしょ、わたしイヤホンガイド無くてちゃんと鑑賞できるのかしら...と、不安は募るばかり。

Bunkamura内は、クレジットカードが使えない場所が多く、シアター・コクーン内も例外ではありません。サンドイッチを買ったら持ち合わせがなくなってしまって、筋書きすら買えず、わたしは丸腰で座席に着くことに。さて、困った

不安の種は他にもありました。ネット上でチラホラ目にしていた、辛口な評価の数々。どうやら、「いつものコクーン歌舞伎」とは違っている様子。現代的で前衛的。果たしてついていけるのか、わたし...

 

いざ鑑賞!

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ヒロインお袖は生活のため、売春宿みたいなところで働いている(事情を話して性行為は一度避けてもらってはいる)のですが、そこで偶然実の夫・与茂吉が客としてやってきます。真っ暗な中、自分の妻とは知らず「こっちへおいで」と言う与茂吉。自分の夫とは夢にも思わず「一緒に寝ることだけは勘弁してくださいまし」と言うお袖。この会話が、やたらとセクシーで、しょっぱなからソワソワしたのでした。

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噂に違わぬ肉体美!直助がふんどし姿で大暴れします。お袖を、お金を渡してまで口説きにかかったとうのに、お袖ったらちゃんと夫がいて、しかもラブラブときている。「盗人が!金返せ!!」とわめく(と言ってもこの金は職場から盗んだもの)直助に、もらった金を突き返して「これで文句ないだろ」と吐き捨てるお袖。かっこよすぎる。その後、直助の目の前で「夫婦でしっぽり♡」と夜の街へでかけていく夫婦がかわいくてニコニコしてしまいました。

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ここでの直助が、セクシーでたいそうカッコ良いのでくらくら。日焼けして引き締まった筋肉質な身体に、着物1枚ひっかけて、「抱いてやろうと思ったのよ」と言いながら腰を二度三度振って見せます。エッチが過ぎます

直助、お袖欲しさに人を殺して、その顔の皮を剥いでしまうような猟奇的な一面を持ちながら、お袖が嫌だと言えば絶対に身体の関係を持とうとしない律儀なところがあります。「俺あ毎晩、妙~~~な気持ちだよ?」と言って観客を笑わせつつ、お袖が身体を許すのを待っているのです。そこに勘九郎丈のキャラクターも相まって、どうしても直助を憎むことができません。不思議なキャラクターだなと思いながら観ていました。

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「川」を表現するのに、舞台上ではさまざまな格好をした人間が寝そべっていました。濁流の混沌としたかんじ、死体が日常的に流れてくる川の感じが端的に表現されているように感じます。そんな川の中に金目の物がないか探す直助、素足で川の中へ入っていくのですが、その時に「川」役を踏む!!踏む!!おもわず笑ってしまったけど、痛そうだ...


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お袖の姉お岩を愛する男・伊右衛門も、お岩欲しさにお岩の父親を斬り殺してしまうような相当なワルなわけですが、自分を慕ってくる若い娘や大金をチラつかせられてもなびかず、お岩が毒を飲まされたと聞いてすっとんでいく、あくまで「お岩の夫」の姿勢を崩さないところがあります。

「妻の顔が崩れれば、愛想をつかしてこっちへ来るだろう」という相手方の意図もむなしく、伊右衛門は崩れた顔のお岩に寄り添います。夫として。でもお岩は、伊右衛門のことを正式な夫と思っているわけではなくて、あくまで「親の仇を討ってくれる人」としか思っていないんですよね(まあ殺したの伊右衛門なんだけどね)。温度差を感じます。伊右衛門は、着物と、赤ちゃんのための蚊帳を剥いで持ち去っていくのですが、すがりつくお岩に泣きそうな声で「そんなに大切なものなら離すなよ」ということを言います。離してほしくなかったのは、蚊帳ではなくて、きっと伊右衛門自身なのだろな...。

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お歯黒をし、髪をとき、その間にも顔はどんどん崩れてゆき、顔を上げた時には見るも無残な異形の顔になってしまったお岩。頼みの綱である伊右衛門はもうおらず、赤ちゃんの服も、赤ちゃんを守る蚊帳も、自分の着物もなくなってしまった。蚊帳を奪われまいとすがりついた時に剥がれた爪から、真っ赤な血がボタボタと滴り落ちていきます。その姿があまりに苦しく悲しく、わたしまで思わず悔し泣きしてしまいました。お岩は、たったひとりで死にました。遺された赤ちゃんには鼠がたかり、どこかへ連れさられてしまいました。

お気に入りのキャスト

お袖役の中村七之助丈(中村屋)、与茂吉とお岩を演じ分けた中村扇雀丈(成駒家)、現代劇の畑の方々など、魅力的な人がたくさんいた舞台でしたが、特に個人的に思い入れのある方をピックアップ。

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薬を盗んで伊右衛門に殺されてしまった、小仏小平(こぼとけこへい)が敬愛してやまない主人・又之丞(またのじょう)。演じているのが、壮年のバレエダンサー・首藤さんという方なのですが、この人がすごかった...!

首藤さんは、15歳でバレエ団に入団してから、世界的振付家の作品に多数出演した、名の知れたバレエダンサー。その彼が演じるこの又之丞は、病に倒れ、体を動かせないという役なのです。それだけ聞いたら、なんてもったいないことを...と思っちゃうところです。又之丞は病に侵され寝たきりで、青白い顔、ボサボサの頭。武士ですがこの有様なので、商人たちにあらぬ盗みの疑いをかけられたりする。完全にナメられているのです。そんな主人の回復を願って、殺された小平が霊となって薬を届けにきます。小平の、薬と主人への執着は相当なものでした。小平の忠義は立派だけれど、なぜそこまで?と疑問ですらあったのですが、この又之丞を見て納得がいきました。首藤さんは、観客を納得させるだけの演技(素?)を見せつけてきました。

思うように身体が動かず、もどかしく悔しい。内に渦巻く衝動や情熱が、目や声、首の筋からほとばしる。彼が病に倒れる前、どんなに美しく躍動していたかが偲ばれる、痛烈な演技でした。ダンサーが踊ることを許されない舞台で見せる表情は、鬼気迫るものがありました。

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今ちょうど、首藤さんが被写体となった写真展「DEDICATED」が7/22まで開催中。行きたい。(http://am-project.jp/)

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四谷怪談は、いわゆる「お岩さん」誕生秘話みたいなところがありますが、実際お岩さんはそれほど怖くない。実はその周りの人間たちの方がずっと怖い。そのうちの1人が、又之丞の家来で先ほども触れた小平。中村国生(成駒屋)丈が演じます。

病に伏せる主人のために薬を盗んで、伊右衛門にひどい目にあわされる小平。でもめげない。めげないのはいいけれど、その執着が異常すぎて、完全に伊右衛門も引いている。演じる国生丈ののほほんとした表情が狂気を孕む瞬間でした。「伊右衛門さん、薬をください」と、砕かれた左手をだらりと垂れて懇願する小平の目ときたら。完全にイッちゃってます。中二階から双眼鏡で見ていましたが、ゾッとして鳥肌が立ちました。これが自分の薬ではなく、主人にあげる用というところにも、敬愛というより心酔、崇拝といったところ。ちょっと尋常じゃないものを感じずにいられません。

ラスト、責めるでもなく恨むでもない、切なげな表情で群衆の中から伊右衛門を見つめている小平。もしかしたらわたしのそばにもいるかもしれない、と思わせられて、またゾクッときました。というわけでジュリー的MVPは国生くん!

反省

鑑賞後、地獄の余韻が抜けないままバスに乗って帰ったのですが、ワンピース歌舞伎で白ひげがスクアードに言う台詞「信じるものはてめえで決めろ」の言葉でした。わたしに当てはめて考えると、面白いと感じるかどうかくらい自分で決めなきゃいかんなあということです。鑑賞前、コクーン歌舞伎に関しては、賛否両論様々な評判を聞いていました。俳優陣のこと、演出のこと、などなど。一度は、チケットを手放そうかとも思ったほどです。

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しかし、いざ蓋を開けてみればご覧の通り。心を掴んでユサユサ揺さぶられ、登場人物に思いを馳せ悔し泣きまでし、人の狂気に肝の冷える思いがする、とんでもないひとときが待っていました。本当に観て良かった...!

もちろん「自分が面白いと思うのだから、つまらないと言う人は間違い」だなんて思いませんけどね。「面白い」という感覚は、思っているよりずっとずっと個人的なものなのですから。これからも、自分が良いと思うものをどんどん観て、心を豊かにしようっと。

ジュリー下戸でした。ありがとうございました。