ジュリー下戸の歌舞かれて東京

歌舞伎のイヤホンガイド解説員になるのが夢のイチ歌舞伎ファンが書いているブログ

「浮かれ心中」を観てきました

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こんにちは、ジュリー下戸です。

4月に明治座で公演していた「浮かれ心中」「二人椀久」を鑑賞してきました。後者は舞踊と思ってあなどるなかれ、あまりの美しさ、切なさ、やるせなさに胸が締め付けられ、顔面ぐしょぐしょになるほど泣きました。

が、何よりわたしに衝撃を与えたのが前者「浮かれ心中」。中村勘九郎さんを舞台で拝見するのが初めてだったわたしは終始圧倒され、噂に聞く「勘三郎イズム」みたいなものを初めて肌で感じ、また歌舞伎へのイメージが覆されたような気持ちで劇場をあとにしたのでした。お腹が痛くなるほど笑って、唇がぶるぶるするほど泣いて。感情を完全に手玉にとられました...

以下、「浮かれ心中」メモです。心に残ったとこだけかいつまんでいます。お衣装などはうろ覚えです、ごめんなさい!!

ほっとけない主人公

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「浮かれ心中」の主人公栄次郎は、作家で有名になりたい良いとこのボンボン。作家活動を好きにさせてもらうために、一年間だけ勘当してもらい(もうこの段階で面白い)、長屋の娘・おすずと結婚をします。

若旦那である栄次郎、式が始まるというのに一向に姿を見せず、出てきたと思ったら、満面の笑みに紋付袴、羽織紐をブンブン振り回しながらの登場。軽快なフットワークと、振り切れたテンション。すごいよ勘九郎さん、わたしもう栄次郎のこと好き!!しゃべり方も滑稽で、志村けんのバカ殿みたいに「あたしゃあねえ」と間の抜けた声で話す栄次郎。もう、こいつはどうしようもねえなという気持ちと、なんだか放っておけない愛らしさを感じるのです。それは観客であるわたしだけではなくて、登場人物たちもそのようで、その無敵の求心力で物語はぐいぐい進んでいきます。

おバカで、お金を積めば何でもできると無邪気に思っていて、そいで、たいした才能もないのに、作家として大成すると信じてる。ああ、栄次郎。愛しき我らが主人公。

夫婦喧嘩ごっこ

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栄次郎の妻となった長屋の娘・おすずは、「この年まで売れ残ったというからには、相当ブスだろう」とタカをくくっていた栄次郎が驚きと喜びでロケットみたいな動きをしちゃうほどの美しい女の子です。美しく、栄次郎を慕い、献身的に支えます。おすずを演じるのは、尾上菊之助さん。ふわふわとした頬、柔らかな物腰。栄次郎じゃなくたって大喜びに決まっています。

物語の半ばで、栄次郎が「夫婦喧嘩をド派手にやって、ご近所を騒がせよう」と思い立ち、おすずに「喧嘩しているフリ」をさせるのですが、このシーンが面白くて大好き。おすずが急に野太い声で怒鳴りだし、栄次郎含めほかの登場人物がおったまげ「どっから出てんのよその声!?」と尻もちまでつきます。一方の栄次郎も、強気におすずに意地悪なことを言うのですが、茶番と知っていても悲しいものは悲しいおすず。ションボリするおすずを見て「あぁん、ごめんよおー!!そんなこと思ってるわけないよおー!!おすず大好き!!」と飛びついちゃう栄次郎。もう、喧嘩しているフリすらできなくなっちゃうくらい、栄次郎とおすずはラブラブなのです。一年きりとの約束なのにね。

この喧嘩のシーンで大事な脇役、坂東新悟丈演じる、栄次郎の妹・お琴。さすが栄次郎の妹というかなんというか、肝が座ってるところがあっていいキャラしてるなーと思いました。気づいたら舞台から吹っ飛んで(文字通り)え!?なぜお琴が飛んだ!?と思っている間に幕が閉まる。面白すぎて、幕間に入ってもずっと笑いが止まらなかった。あの怒涛の流れ、面白すぎるし心がワクワクして思わず手をぎゅっと握ってしまう、しっちゃかめっちゃかな舞台を見ながら「たのしい、たのしい、たのしい!!」とずーっと思っていました。

やかましいわ

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江戸の世話物ということで、粋でウマい言葉遊びがたくさん出てきて、それが小気味よくて好きでした。例えば、なかなか帰ろうとしない若い男に対して「お前はゆで卵みてえな男だな。いつまで経っても孵(帰)らない」と言ってのけたり。でも、一番笑ったのは、晴れて手鎖の刑に処された(正しくは無理言って処してもらった)栄次郎が、ドンチャンドンチャンと音を奏でながら花道を帰ってきたときの、栄次郎パパの「鳴り物入りでお帰りか!!」という台詞。完全なるノリツッコミ。パパwww

「手鎖三日」と、明らかに手作りしたであろうグッズも微笑ましいし、「皆々様の温かいご声援のおかげで、この度めでたく手鎖三日の刑に処されることができました」とうやうやしくスピーチする栄次郎のバカっぷりがサイコー。お父様も苦労するわね。

バカップル

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手鎖をしてるから、普段は栄次郎が抱きしめる側だけどそれができない、そこで太助が「じゃあおすずさんの方から抱いたらいいじゃない」と当たり前のことを言うのですが、栄次郎「あんた頭いいねえ!」と目を丸くします。この時おすずも「なるほど~」みたいな顔してる。そして、「おすず♡」と言って猫のようにおすずの懐へ潜り込む栄次郎を、心底愛おしそうに抱きしめるおすず。そこへ栄次郎パパの「2人ともバカ!」というバカップル認定が入ります。おすずは決してバカな女ではないんだけど、栄次郎の人柄にすっかり惚れて、栄次郎に似てきたのかなと思いました。心からおすずを愛す栄次郎と、そんな栄次郎を慕うおすず、もうこれ以上のカップルはないよ.......二人ともかわいいし幸せいっぱいだよ...

個人的に嬉しかったのは、栄次郎の妹であるお琴が、栄次郎を家に連れ帰ろうとする父親に対して「おすずさんも一緒に」とお願いをしてくれたこと。そして太助さんまでもが「この茶番を終えたら、おすずさんを幸せにしてあげてください」と言うこと。お琴も太助さんも、おすずさんを好きなんだ。おすずは、別に売れ残った女ではないのです。前の夫が病死して、おすずだけが残された。だから、おすずは幸せにならなきゃいけない人なんだ。栄次郎といっしょに。

ああ、栄次郎もおすずも、愛されすぎ。結局お父様もおすずさんを認め、一年といわず、生涯一緒に居られることになります。かなわないんだけど。かなわないんだけど。栄次郎が刺され、息を引き取る間際に「ああ、おすずに会いたいなあ」と力のない声で言うのが、ほんとにずるい。おすずもあんたを待ってるよ。バカバカ、なんで死んじゃうのよ。これからずっと一緒に居られたのに。幸せにするって約束したくせに。バカバカバカバカ。

「夢に向かって、あの世に出発」

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さて、死んだ栄次郎は、自分の作品の登場キャラクターであるネズミのちゅう太(ネーミングかわいい)に乗って、あの世へ飛んでいきます。あの世へ向かう途中で太助さんを見かけ、そこでずいぶんゆるい会話をするのですが、太助さんがイイことを言ったときにニヤニヤしながら「音羽屋ーwww」って大向こうごっこしていたのがかわいかったです。メタっぽいことも、こんだけ笑わせられたら受け入れちゃうなあ。そしてここの会話が泣けるのです。「書かなきゃダメだあ」と言う、たまらない栄次郎の表情。太助さんに望みを託し、栄次郎は旅立ちます。

お囃子でのミッキーマウス・マーチのあと、イッツ・ア・スモール・ワールドをBGMにあの世へ向かう栄次郎。その時に、こんな台詞を言うのです。

「夢に向かって、あの世へ出発!」

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ああ、栄次郎のバカ。バカバカ。死んだあとに夢もクソもあるもんか。でも、晴れ晴れとした表情で桜吹雪の中へ消えていく栄次郎を見たら、なんだか夢でも何でも見られそうな気がしてきます。残されたおすずやお琴や太助さんたちも、まるごと救われるような気持ちになったのでした。一方で、こんなにわたしたちが悲しんでいるとゆーのにてめー!!という気持ちにもなりました。本当に、最後までわたしたちの感情を揺さぶる栄次郎。わたしはそんな彼が大好きです。おすずやお琴、太助さんたちと同じように。

そこまでやるの?やってもいいの?

アドリブも満載、メタ発言もあり、挙句の果てには「トレンディエンジェル」斎藤さんの真似をちゅう太とともに披露して「こういうのは!今しかできないのっ!消えちゃうかもしれないんだから!」なんて言う。自由すぎ。こんなの、歌舞伎でやっちゃっていいの?こんなに面白いことして、まるで吉本新喜劇みたいじゃない。と一瞬思ったんだけど、最近の「スーパー歌舞伎Ⅱワンピース」や「超歌舞伎」でも「そこまでやるの?歌舞伎なのに、そこまでやってもいいの?」って思っては「いいんだな」という結論に至る、というのを繰り返してきたのだった、そのことに気づいてハッとしました。

古典歌舞伎は、「当時の流行」を取り入れているから、今見たらとても形式ばって格調も敷居も高いものに感じられるだけで、歌舞伎のあり方って実はあまり変わっていないのかもしれませんね。今の歌舞伎は、かつてそうだったように「今の流行」を取り入れただけのこと。「浮かれ心中」でミッキーマウス・マーチが流れようが、トレンディエンジェルバンビーノ等のネタが使われようが、歌舞伎は今までもこれからも変わらない。そう考えたら、これから先の進化に思いをはせずにはいられず、めまいがする思いです。ずっと歌舞伎の進化を、そばで見ていられますように!

ジュリー下戸でした。ありがとうございました。