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ジュリー下戸の歌舞かれて東京

歌舞伎のイヤホンガイド解説員になるのが夢のイチ歌舞伎ファンが書いているブログ

ワンピース歌舞伎を見納めてきました

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こんにちは、ジュリー下戸です。

わたしが歌舞伎の世界に興味を持ったきっかけ、それは2015年10月に新橋演舞場で公演していた「スーパー歌舞伎Ⅱワンピース(以下ワンピース歌舞伎)」を鑑賞したことでした。圧倒的なエンターテインメントのパワーにすっかりやられて、11月の千秋楽にも行き、その流れで若手歌舞伎役者が出演した「新春浅草歌舞伎」にも赴き、今に至ります。

新春浅草歌舞伎の感想はこちら。

そのワンピース歌舞伎が、4月26日、博多座で大千秋楽を迎えるとのこと。ご縁あってチケットを手に入れることができたわたしは、人生初遠征を博多座に捧げることを決めたのでした。

わたしがワンピース歌舞伎の千秋楽を目撃した感想を、順不同で並べておきます。きっと何十年か経って振り返ったとき、この気持ちはとんでもない宝物に変わっていると思うから。

大阪からの新メンバー

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わたしは福岡へ行くことを決めた一方、大阪へ行くのを諦めていました。よって、大阪から加わったメンバーや演出を観ないまま、千秋楽という集大成の場を目の当たりにしたとゆーわけで、贅沢なことです。

けんけんこと尾上右近丈は、東京からまさかの大出世を遂げた(嬉しすぎ)マルコと、新登場のサディちゃん役。サディちゃんは、原作を読んだことのある方はご存知でしょうがたいへんエッチな女性で、囚人を拷問しその悲鳴を聞くのがだーい好きな超弩級のドS。「ん~~~~~~♡」という悩ましい口癖があります。男性である尾上右近丈がどう演じるのかワクワクしていたのですが、普通に「ん~~~~~~♡」って言っていた(しっくりきていた)ので大変驚きました。マゼランを呼ぶ「署長ッ!!」の声がサイコーだった...。あと、サディちゃんはジンベエを1度ギュッと踏み越える場面があるのですが、肉感的な右近サディに乗られた親分、さぞ重かろう...と心配に...。マルコは、個人的に大好きなキャラクターで東京公演時から「マルコをもっと出せ」と言ってきたので、もう「演じてくれてありがとう」としか言えません。「俺も聞いてたよい」、意地悪で優しくて、けんけんマルコありがとうありがとうと手を合わせずにはいられませんでした。もちろん、東京公演の2人のマルコのおかげでもありますね。ありがとうありがとう。

平エースは、哀愁とか心の闇とか孤独とか守ってあげたくなるところとか「エースくんはやさしいんだ」と言わしめる優しさとか、そういうのを全部抱え込めてしまう人でした。福士エースは、ルフィとの距離が近く、でも眩暈がするほどハンサムでイケイケで、アラバスタで「弟をよろしく」と言って笑ったときのエースに雰囲気が似ていた(そしてわたしはこの場面が大好きなのです)。平さんは、エースから滲み出る闇の部分がすさまじい。そんなエースが、助けに来てくれたルフィを圧倒的な包容力で抱きしめるシーン、お前も辛いだろうに!!という気持ちになって涙が出ました。平エースの「俺は歪んでるぜ。~嬉しくて涙が止まらねえ。今になって命が惜しい」、切なくて胸が苦しくなって、思い出しても泣きそうです。福士エースのときは「死ぬなー!エース!死なないでくれー!!」と発狂しそうになったけど、平エースは「あなたはこんなにも多くの人に愛されているのだね、よかったね、うまれてきてくれてありがとう」という、同じ寂しさでも違ったベクトルのもので、演じる人によって違うものだなあと感心したのでした。泣きながら。

色々あったけど大向こうはやっぱりかっこいいわ

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歌舞伎の独自のルールに、屋号や演じている方の名前を呼びかける「大向こう」というのがありますね。ワンピース歌舞伎では、客層や演目もあいまって、大向こうではなく「ボンちゃん」「ルフィ」等のキャラクター名を大声で叫ぶ人も複数いて、それがちょっと気になっていたのでした。千秋楽で、変な声をかける人がいたらどうしよう...でもわたしも興奮してて気にならないかな...なんて、色々考えを巡らせていました。

千秋楽には、複数人の大向こうさんがいらっしゃって、声を合わせたり、出演者によって分担したりと、うまいことやっていました。そしてその声がたいそうかっこよかった!!タイミングが合うと、舞台がこんなにも映える。かっこいい。わたしの気持ちの高まりを、さらにアシストしてくれる感じ?うまく言えないけど、感情の波にうまく乗ったサーファーみたいでした。あるいは、カメラのシャッターのよう。場面場面が、大向こうによって区切られ、縁取られ、印象づけられていく。すごい文化だと思います。

ボン・クレーの六方前にかかった「大和屋!」、星が浜でマリーゴールドとサンダーソニアが出てきた時の「笑也!」「春猿!」、石橋さんに対する「直屋!」などなど、数えだしたらきりがない。「ひらッ!」も、端的でかっこよかったなあ。わずか数文字の中に感情と抑揚を詰め込んだ、最高にかっこいい大向こうをたくさん聞けて幸せでした。

お願いだから休んでほしい気もする幕間

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熊本と大分の震災を受け、出演者が自発的に(ソースはカーテンコールでの四代目の言葉)始めた、幕間の募金活動。三幕目ですぐ出番のある出演者以外、ほとんど出てきてくれています。さっきまで楽しくファーファータイムを満喫していたニューカマーや囚人たちが、その装いのまま出てきてくれる。すごい。春猿さんはナミの格好で出てきていて、募金箱を小脇に抱えてパタパタ駆けて行くようすはナミさんそのものでかっわいかったぁ........

わたしがお話できたのは、猿若さん(ミキ)、チャルさん(ケイ)、石橋さん(ダズ)、早川さん(囚人)、蔦之助さん(サオリ)、笑也さん(女囚人)、猿くん(囚人)。ニューカマーの皆さんなどは、気の利いたお返事なんかをしてくれるので、ついつい二言三言お話してしまいました。

猿之助さんはというと、舞台上手でずーーーーっと、絶え間なくやってくる観客とずーーーーっと挨拶を交わしていました。席が近かったので、募金を受け取る猿之助さんを見つめることができたのですが、あのフルパワーの舞台の貴重な休憩時間に、ルフィの格好をして、ひとりひとりと握手をして目を見て話してくれる姿に胸を打たれました。ときどき、舞台の感想を言っているお客さんがいらっしゃって、その言葉にもしっかり耳を傾け「どうもありがとう」と言っていました。何人も何人も...

役者自身が募金箱を持って回るって、確かにずるい。役者とお話がしたくて、とか、覚えてもらいたくて、とか、被災地支援とは離れた動機でお金を入れに行くお客さんも多かっただろうと思います。役者が直で受け取るので、なんだかおひねりを渡しているような気持ちにすらなってきます。

でも、どんな手段を使おうが、どんな気持ちで渡されていようが、お金はお金。被災地が必要としている、早急に必要なお金。猿之助さんは、よっく分かっていたのだなと思います。お客さんは喜んでお金を入れているし、その結果2200万円(!!)集まったし、それを観客の見ている前で市長に託していました。なんて人だ、と思いました。こんな豪快に金が動くのを初めて見ました。

しかしながらやっぱりちゃんと休んで欲しかったりもするのだ。複雑だ。この公演が終わった直後にラスベガスに行くようなハードスケジュールの人もいるのだし、うーん、複雑だ。

ライオネル親方の行方

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ライオネル親方とは、ルフィの回想シーンで、坂東巳之助丈演じるゾロが持っている水筒。井之上チャルさん演じるウソップのジョッキに、ゾロが何かしらものを注ぐというお約束がありました。今日注がれたものを、チャルさんが自身のTwitterで発信しているのも面白かった(たいていひどい)。千秋楽、いったいゾロは何を注ぐのだろう。観客は息を飲んで見守っていたのです。

そしたら、まさかまさかの展開。会場からは堪えきれないクスクス笑い。ああいう小ネタも嬉しかったです。演者が楽しそうなのが楽しい。ちなみに、ライオネル親方の中身は空っぽだったのだそーな。

歌舞伎の世界の外の人たち

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歌舞伎役者すげー、歌舞伎すげーと思う一方で、歌舞伎役者でない出演者のプロっぷりを見せつけられてた公演でもありました。誰も彼もが、すごい。名も無き囚人と思わせて、その1人だけをピックアップしたとしても、すごい。よくもまあ、こんなメンバーを集められたものだなと感心するしかありません。特に、海軍のふたり。

市瀬さんは、美しき青雉クザン。「美しき」って付けちゃうくらい、美しい。クザンが舞台に出ている時は、どんなに近くてもオペラグラスのピントをクザンに合わせてしまう。氷河時代で駆け出す瞬間など、あの甲冑でよくぞ...!!と思わずにいられませんし、白く塗られた横顔の芸術的なこと!お声も素敵です。

嘉島さんは、赤犬サカズキ役(それから、ブルックも!)。大衆演劇の出身で、もう、喋り方から声から立ち振る舞いから、全部全部全部素敵。フラッグ回しもかっこよく、表情の細やかさからひょうきんなリアクション、相手を挑発する嫌な視線...原作ではサカズキをあまりよく思っていないわたしでさえ、嘉島サカズキが出てくると気分が高揚します。吐き捨てるように言う「看取らしてくれや」という台詞が大好きでしたが、博多じゃなくなっていた?「~じゃけぇのぉ」カッコイイです。見得もバッチリ。

絶叫カーテンコール

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東京の千秋楽でのカーテンコールが楽しかったので、今回も期待していたのですが、なんと、なんと、ゾロが頭巾を投げちゃった。会場、阿鼻叫喚 。わたし、到底届かないので「アアーーーーー!?!?」と叫ぶのみ。むなしい。

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中村隼人丈が目をぱちくりさせて「投げちゃったの!?」って言ってるのが見えました...。そうよ、はーちゃんもっと言ってやってよ。巳之助丈の、たった1枚(たぶん)の頭巾、みんな欲しいに決まっているわ。誰がゲットしたって幸せにはなれない。少なくともわたしは嫉妬の目を向けずにはいられないし、その人だって特定されちゃうからSNSに自慢もできないし、時々取り出してにおいを嗅ぐくらいのもので...うう...欲しかった...

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巳之助がその頭巾を不要だとして、どうすればみんなが幸せになれたのか考えてみました。はーちゃんに巻いてあげれば、はーちゃんもみんなもホッコリ。もしくは、細かく切って後援会会員に配る。「頭巾のこのへんです」と図解も添えて。何度でも申し上げますが、わたしは頭巾が欲しかっ

航海は続く

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シネマ歌舞伎になったらいいな、再演したらいいな、と思っていたら、全部叶っちゃた。夢みたい。だれかが「東京凱旋公演」というワードを仄めかしていましたが、凱旋ではなく正式に「再演」が決定!それも、猿之助ルフィから直接、ドラムロールつきで(!)発表とあって、えげつないほどの悲鳴が上がりました。嬉しい~~~。

ちなみに、猿之助さんにとって東京版は「未完成版」なのだそうですが、シネマ歌舞伎になるのはその東京版。と発表があったとき、「え、俺は?」とちょっと納得いってない平さんと、その肩を抱くけんけんwww(2人とも東京出てないからね)。たしかに2人がいないのは残念だけど、福士エースにまた会えるということで楽しみもありますね。

再演、また演出やキャラクターを変えてくるのだろうか。くるだろうなあ。出演者陣も、全員おんなじというわけには行かないでしょうし、もしかしたらとても大事なキャラクターのキャスティングが変わってしまったり、なんてことも有り得るし...。でも来年だなんて、チケット発売日のことも考えたらきっと本当にあっという間。来年まで生きる。

ワンピース歌舞伎の筋書き(プログラム)には、主な出演者のインタビューが載っていて、東京から更新されていたので購入したのですが、出演者の気持ちも明らかに変化していましたね。東京公演のときは、みんな「手探り」「一体どんな舞台になるんだろう」「わたしでいいの?」みたいな、「ぶっちゃけ不安だよ」オーラが漂っていました(もちろん皆様プロだから、舞台上では堂々とされていましたけれど)。でも、博多座で開いた筋書きでは一変。愛される公演になったことへの驚きと喜びが満ちた、ポジティブな言葉が並びます。なんだかそれが、とっても嬉しかった!!愛してくれてありがとう、です、まさに。

市川男女蔵さんの筋書きのインタビューが大好きです。「監獄署長マゼランは、小さい頃、毎日花に水をやっていた。でもドクドクの実の能力者だから、自分の毒が流れ出て花が枯れる。そして悲しくて泣くような、優しい子」ってマゼランを紹介するんです。劇中じゃ、あんまり出てこないエピソードではありますが、男女蔵さんはそういう設定もしっかり自分に落とし込んで舞台に立っている。だから、舞台にいるのは、かつてお花を愛でた、厳格だけど心の優しい監獄署長。ただの悪役に終わらせられない魅力は、そういうところから出てくるのだなと思いました。おめらん大好き.....!!ただただ新鮮だった登場人物たちが、千秋楽を迎え、キャラクターが役者にしっくりときている。そんな麦わら一味が見得をきるサウザンド・サニー号、そりゃー涙も出ますよ。とまりませんよ。ありがとうとさようならが一緒くたになったラスト。最高。

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およそ半年の公演をひと段落させた"ワンピース歌舞伎"。東京公演は怖いもの見たさだったひとが、大阪、福岡と航海をともにしてしまう。女の子が歌う主題歌に眉をひそめていた人が、立ち上がって一緒に歌っちゃう。原作を知らない、歌舞伎を知らない人が、漫画を読み始めたり古典歌舞伎を鑑賞し始めたりする。そして、大きな災害すら乗り越えて、いろんな人の運命を変えながら、ワンピース歌舞伎は千秋楽のゴールにたどり着きました。

「わたしたちは今、とんでもないものを目の当たりにしているのでは」と息を呑む瞬間が何度もありました。本当に、観られて良かった。昨年の秋に、ふと思い立って新橋演舞場へ赴いた自分を、100万回褒めたい。そして、いま興味が少しでもある方は、ためらわずに再演観にいってください。後悔なんかしないから、絶対!!

ジュリー下戸でした。ありがとうございました。

P.S. カーテンコールで猿之助さんがセルフィーしていたのですが、どこで公開されますか?