ジュリー下戸の歌舞かれて東京

歌舞伎のイヤホンガイド解説員になるのが夢のイチ歌舞伎ファンが書いているブログ

二人の桃太郎の門出を見届けてきた話

こんにちは、ジュリー下戸です。

 

先月の歌舞伎座「猿若祭」にて、中村勘太郎丈・長三郎丈の初舞台「門出二人桃太郎(かどんでふたりももたろう)」を観てきました。泣きました。ボロ泣きです。小さな二人の生きる力が、大人たちの喜びが、緊張、不安、希望...色んなものが舞台から溢れていて、それにあてられて感極まってしまったのです。幸福でした。
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あらすじ

ご存知、桃太郎と内容はほぼ同じ。どんぶらこと流れてきた桃から出てきた男の子が、動物を従えて鬼退治に行くというストーリー。ただ、今回は生まれた子どもが二人!犬猿雉は、鬼に困っているお偉いさんの命令によって、桃太郎兄弟のお家まで駆けつけます。子どもの桃太郎ですが、鬼を蹴散らす大活躍!鬼の大将に「日本一」の旗持ちまでやらせて、堂々と凱旋していくのでした。

舞台セットがまずかわいい。絵本みたい。パステルカラーの平和な世界にキュンとしていると、桃が流れてきます。
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出方に客席から笑いが。この、歌舞伎の「えwwwwwww」って言っちゃうようなアナログさ、たまりません。わたしこれ大好きなんです。「毛抜」で、巨大な毛抜きが宙に浮くところも、後ろで黒衣さんが棒持ってプカプカ浮かせているんですよね。今の技術なら機械仕掛けでなんとかできるでしょうが、そうしないところがとっても良い。もう1箇所、黒衣さん大活躍なのが、桃太郎爆誕の場面。
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フンドシ1丁の桃太郎(勘太郎丈・長三郎丈)を、桃の影から黒衣さんが抱き上げて登場。3歳の長三郎丈はともかく、5歳の勘太郎丈を高々と掲げるのはさぞ大変だろうな...と、振り返って労わずにはいられません。舞台の上では、黒衣さんは「いないもの」とされているので、あんまり気にならないんですけど。

出てきた瞬間こそ「ひえええ~~~なおのり、なんてかわいいの~~~天使が~~~天使が生まれたよ~~~」と目がハートになったものの、見得をするときのキッと結ばれた口と、大きく開かれた紅葉の手の力強さに、思わずドキリ。「いってまいります」と言って、花道でバッタリと決まった頃には、もう「なお、のり」なんて心の中ですら呼べず「さんを付けろよデコ助野郎」状態。勘太郎さん、長三郎さん、ご立派です。

鬼退治について行くフレンズ

犬彦、猿彦、雉彦は、その名の通り桃太郎のお供をする犬と猿と雉。その歌舞伎ナイズされたデザインがマジで素敵なので紹介します。
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イヌの犬彦。演じるのは市川染五郎丈。染五郎丈のお祖父さまが、18代目勘三郎丈の桃太郎の時におじいさん役。お父さまが、今の勘九郎丈・七之助丈の桃太郎の時に犬彦役を務め、今回は自身が犬彦を演じます。ご縁があるので、是非犬で出たい!と立候補されたんだとか。ブログで犬彦の拵えの写真をたくさん載せていたので、お気に入りなんでしょうね。「自慢のワン力でワンツーパンチ」という、名乗りの「ワンづくし」がジワジワきて良いです。
f:id:jurigeko:20170309003321j:image猿の写真:プロ・フォト

サルの猿彦尾上松緑さんが演じます。お顔もそうなんですが、ひょこひょこした歩き方やちょっと曲がった背中、遠目から見ると本当に猿に見えます。お利口さんな猿。研究されつくした歌舞伎の猿に、目が釘付けです。長三郎さんのすぐ後ろを歩くので、時々ハラハラした表情を浮かべているのにキュン。

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キジの雉彦尾上菊之助さんが演じているのですが、雉っていうか鳳凰の間違いなのでは...と思ってしまうくらいの神々しさ、美しさ。立ち止まるときに、体がふわっとSの字を描くようになるのがたまらない。優雅な着物に、鳥の足を表現しているお手元のグロテスクな感じがグッときます。

二人の未来

中村勘九郎丈と七之助丈は、歌舞伎界でもテレビ露出が多い俳優さんですよね。映画やバラエティ、子供番組なんかにも出ているこのおふたりは、意識をしてかせずか、とっても正直で、現代的な感覚の持ち主だなと思うことが多いです。

演劇界 2017年 04 月号 [雑誌]

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 七之助丈は「子どもができるとしたら、女の子がいいな~」なんてのんびりと言うし、勘九郎丈は「(子供の将来が幼くして決められることについて)正直戸惑いがある」ときっぱり言う。一般人の「梨園」のイメージは、男を産まなきゃいじめられるとか、歌舞伎俳優の子は絶対に歌舞伎俳優に育てるとか、そういう浮世離れした奇妙な文化の世界。「なおやくんとのりゆきくんは歌舞伎の家に産まれたばっかりに、勝手に将来を決められてかわいそう」とか、ひどい人は「(子どもが望んでいない厳しい稽古は)虐待だ」と言います。

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そういう意見に対するアンサーとして、勘九郎夫妻は、子どもが歌舞伎を続けたいと言ってくれた時のために稽古をし、歌舞伎をやりたくないならその道を応援する、というスタンスでいるのだと発言していました。そりゃあ勘太郎くんも長三郎くんも、恵まれた環境にいるのだから歌舞伎俳優になったらいいじゃない、と思われるに決まっています。でも、歌舞伎俳優は「廃業」することもできるし(坂東三津五郎さんのご子息である巳之助丈も、歌舞伎役者以外の道を検討した上で役者の道を選んでいます)、逆に外から「歌舞伎俳優になりたい」と思っている子を養子や部屋子にしたりすることもできます。今までの歌舞伎役者が全員血縁者かというと、実はそうでもない。歌舞伎をつなぐのは血縁ではなく、技術の継承なのです。

菊五郎の色気 (文春新書)

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父である勘九郎丈は、役者である父の背を見て「自分もやりたい」と決めたそうです。勘九郎丈の背を見て育つ二人は、どんな道を選ぶのか。勘太郎丈と長三郎丈の幼い二人が歌舞伎で食べて行きたいと思ってくれたときのために、周囲の大人は技術を教えていく。役者になってくれたら嬉しいなあ、いやあ、それにしてもかわいいなあ、と、舞台で桃太郎を囲む歌舞伎の先輩たちは、揃いも揃って目尻を下げ、二人のこれからに思いを馳せているように思えました。たくさんの大人に愛されて、どうか健やかに大きくなって欲しいと、わたしまでまるで保護者のような気持ちになって拍手をしていました。

歌舞伎の魔法

そういえば、わたしの幕見席の整理券番号が「33」だったのです。この演目にとって、「3」はとても重要な数字です。中村屋、親子3人で演じる。中村屋3代が、ずっと桃太郎を演じている。染五郎丈も、おじいさんの代から中村屋の桃太郎に参加しているので、3代連続。そしてなんてったって「3」といえば勘三郎さんを思い出させる数字です。

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もちろん、わたしが「33」のチケットをとったのは偶然であり、何の因果もないかもしれません。でも、歌舞伎を観ていると、そういう「運命を感じてしまう」偶然がたくさん起こるんですよね。打ち合わせなしにお友達と席が隣になったり(しかも博多座で、ですよ!!)、観てみたいなあと思っていた演目が歌舞伎座で掛かったり、欲しいと思っていたお切符がなんだかんだ手に入ったり。これは歌舞伎の魔法なんでしょう。そういうことにして、わたしは今日も魔法使いたちのもとへ足を運ぶのでした。

 

ジュリー下戸でした。ありがとうございました。